【判例トーク】公共財産(水路)の時効取得はできる?最判昭和51年12月24日
今回は、判例トークです。
みなさんの周りにもある公共用地(道路、水路)が、永年自分が所有しているかのように使用を続けた場合に、
時効取得の対象(所有権を取得した)という話です。
今回の動画を見ていただければ、公共用地の時効取得の要件がわかります。
ぜひ、最後までご覧ください。
それでは、昭和51年12月24日最高裁判決、国が所有する水路が、時効取得の対象になった判例を紹介します。
Aさんは、自作農創設特別措置法により、昭和22年7月2日に国から田んぼを買い受けます。
自作農創設特別措置法にもとづいて、農地改革として不在地主の農地を強制的に買い受けて、小作農をしている人(農地を借りている人)に優先的に売りました。
昭和27年に法律は廃止されて、現在の農地法に引き継がれているということです。
Aさんは、仙台市で昭和22年に買い受けたときから、あたり一面が田んぼ。
Aの祖父が耕作していたときから、状況は同じでした。
裁判記録には書いてないのですが、おそらくAさんのおじいちゃんが、もともと土地を借りて小作農をしていた。
そして国が元の地主から土地を買い上げて、Aさんに売ったという流れではないかと想像します。
Aさんは、あたり一面に広がる田んぼと、畦畔(あぜ道)すべてを国から買い受けたと信じていた。
ところが、田んぼの中に法務局に登記がされていない地番のない水路があるらしい。
公図(法務局に土地の位置関係とか土地の形がわかる図面)があるんですけど、
どうやら公図を見ると田んぼの中に水路があるのが明らかである。
水路は幅60cmから75cmで合計45枚の水田を区分けしていた。
田んぼ1枚というのは、1反(991㎡)ということです。
田んぼ1枚の横幅が18.18mで縦が54.54mとすると、競技用の50mのプールに匹敵します。
45枚の田んぼの区分けいうのは、おおよそ東京ドーム1個分の水田を区分けをしていたイメージです。
現地は一面田んぼで、水路の影も形もないという状況。
ところが、法務局の公図の資料では田んぼの中に水路があるのが明確です。
現地には水路は跡形もないけど、公図という記録上には水路が存在しています。
Aさんは国を相手に、水路の時効取得をめぐり争いました。
そしてAさんは水路の時効取得(Aさんの所有だと)認められたということになります。
判決理由です。
公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、
公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、
その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、
そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、
もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、
右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、
これについて取得時効の成立を妨げないものと解するのが相当である。
昭和22年に買い受けときに善意、無過失であるので、10年で水路の時効取得が認められました。
時効取得の条文、民法162条です。
第1項
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
第2項
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
条文の条件に合えば、公共用地であっても時効取得が認められるということになります。
土地家屋調査士の仕事をしていると、所有されていると思っていた土地の中に公図などの資料では上の水路や道がある。
ただし現地には、水路や道の形態は残っていないということがあります。
まずは、公共用地について売払いを受けることを検討する。
担当する役所に相談に行って、売払を受けることが可能なのかを確認する。
可能であればスケジュール、必要書類なども確認をしておきます。
つぎに、時効取得についても、選択肢に入れる。
条件としては、10年ないし20年間以上、自分の土地のように占有しているということ。
そうすることで時効取得の可能性は出てきます。
一般的には、売り払いの申請をすることが多いでしょう。
売り払いが難しい場合には、時効取得を検討することになります。