悲報【懲戒処分】になっちゃった!土地家屋調査士の処分事例3

今回は、土地家屋調査士の懲戒処分の事例紹介です。

今まで紹介してきたような業務禁止処分や1年、2年の業務停止処分になるような事例ではなくて、

懲戒処分としては一番軽い戒告処分(戒めを告げる処分)や数週間程度の短い業務停止処分を紹介します。

 

そのために油断をすると誰でも、陥りそうな事例だと思います。

参考にしていただければと思います。

 

 

 

事例1

調査士が入院中に、分筆登記を補助者(従業員)に行わせて完了させた

事例2

夫婦で調査士事務所を営んでいて、夫である調査士Aが受けた依頼を妻である調査士Bが行った

事例3

委任状を売買を仲介する不動産会社の社員Bが署名捺印をしていた。

事例4

B建設が建売住宅を建築し、買主Cが代金を支払わないためにB建設名義で建物表題登記を行った

事例5

調査士法人の社員である調査士Aが、同じ法人の社員である調査士Bの調査測量に基づいて登記を完成させた

 

 

事例1

調査士が入院中に、分筆登記を補助者(従業員)に行わせて完了させた。

名義貸しまたは他人による業務の取り扱いとして、業務停止3ヶ月の処分となっています。

 

調査士Aは平成25年8月1日以降、入院した。

入院した当初より、自分で歩くことができない状態で車椅子の生活、介護が必要な状態でした。

自らが調査測量、境界立会を行うのが困難な状態で地積更正登記の依頼を受け登記を完了させた。

調査士Aは現地には行かず、病院で補助者(従業員)に指示をして業務を行った。

同様に、平成25年に26件、平成26年には55件を受託して病院から補助者に指示を出して業務を完了させた。

土地家屋調査士は、補助者に包括的に業務をさせてはならないとされています。

もちろん調査測量や境界立会は、補助者に任せっきりではなく、土地家屋調査士自らが行なわなければならないということです。

 

現在、土地家屋調査士の平均年齢が56歳。

資格登録に年齢制限はありませんから80歳代、90歳代で登録されている人もいらっしゃいます。

もちろん高齢で業務を継続されている調査士の先生もすばらしいと思います。

しかしながら、中には疾病や痴呆ですでに業務を行えない状況にもかかわらず登録されている人もいるであろうと想像します。

当然、周囲の補助者などが業務を行うことになるでしょう。

 

これから、ますます業界も高齢化していくことを考えると何らかの対策が必要になるでしょう。

資格の年齢制限を設ける。

5年に1回など資格の更新制度をつくる。

研修会の出席義務とレポートの提出を強化する。

などの対策が考えられます。

 

自分自身も、これから高齢者になりますので考え深いものがあります。

やはり健全に業務が行えなくなった時点で、潔く登録を取り消すことだろうと思います。

 

 

 

事例2

夫婦で調査士事務所を営んでいて、夫である調査士Aが受けた分筆登記の依頼を妻である調査士Bが行った。

他人による業務の取り扱いとして、業務停止3週間の処分となっています。

 

調査士Aは、土地の所有者である有限会社乙不動産から、境界測量と分筆登記の依頼を受けた。

調査士Aは、自ら現地の測量、境界立会を行うことなく、妻である調査士Bに行わせた。

他人に自己の業務を取り扱わせた。

 

一般の人からすると、この事例の何が悪いのかという感じするでしょう。

法律で言うところの復代理行為ということになります。

乙不動産が調査士Aに委任をして、さらに調査士Aが調査士Bに委任した。

復代理、つまり委任の委任です。

調査士Bが委任を受けるためには、依頼人である乙不動産の承諾を得て復代理人として定める。

もしくは、あらためて調査士Bに委任する必要があります。

そうでなければ、他人による業務の禁止にあたり懲戒処分の対象となります。

 

今回の場合は、事務所を同じくする夫婦での再委任という事例です。

しかし、一般にさまざまな事情で土地家屋調査士が業務を他の調査士に行ってもらわざるを得ない場面はあります。

例えば、依頼を受けたがその後、病気で入院しなければならなくなった。

業務が立て込んで処理が困難な状況になった。

遠隔地の業務で、自らが行うより他の土地家屋調査士が行ったほうが合理的である。

 

さまざまな事情で自分で調査士の業務を行えなくなることは考えられます。

その場合に、自分が委任を受けたまま他の土地家屋調査士に下請けに出すことは、調査士法違反です。

他の調査士に業務を行ってもらう場合には、依頼者に業務を行えなくなった旨は説明をする。

その上で、他の土地家屋調査士を選んでもらう。

もしくは他の調査士を紹介して直接委任契約を結んでもらうということになろうかと思います。

 

他人による業務に当たる相手が土地家屋調査士であっても、注意が必要でしょう。

 

 

 

 

 

事例3

分筆登記の委任状を売買の仲介する不動産会社の社員Bが署名捺印をしていた

申請意思確認義務違反および本人確認義務違反ならびに報酬の不正受領で、戒告処分となった事例です。

 

調査士Aは分筆登記の依頼を仲介する不動産会社から依頼を受ける。

所有者さんに署名捺印してもらう登記に関する委任状を不動産会社に預けて署名捺印がされた委任状を受け取った。

ところが、受け取った委任状は、不動産会社の社員Bが署名と捺印をしたものだった。

なんとなく不安を感じていた調査士Aは、土地の所有者であるCに電話で確認をする。

土地所有者Cは、「Bに任せてあるから、あんばいようやっておいて」と言われたため、分筆登記を申請することにした。

調査士Aは、登記を完了させて土地所有者Cさんから報酬を得た。

領収書は、調査士A自身が代表取締役を務める測量会社が交付した。

調査士としての報酬は測量会社が受領し、調査士Aは役員報酬として、土地家屋調査士の報酬を受け取っていた。

土地家屋調査士として領収書を交付することはなかった。

 

問題点として、調査士Aは、土地所有者Cと面談や委任状を直接、受け取るなど、本人確認および申請の意思を確認すべき義務があった。

また、土地家屋調査士が調査士法人以外のものから給与を得て業務を行うことは禁止されている。

 

この事例について、私の意見をお話します。

委任状などの必要書類を仲介不動産会社に預けて、署名と捺印をいただくということはあります。

その中で、書類を見てなんとなく、本人が署名していないのではないかと思うことはあります。

署名捺印が社員さんの筆跡と似てるとか、印鑑が100円均一で売ってるような安っぽい印影などで怪しいと思います。

 

対処法として考えられことをお話します。

・身分証明書のコピーの提出を求める

・記名・押印ではなく必ず署名を求める

・電話での申請意思の確認

生年月日、干支等を聴取して本人確認と申請意思の確認を行う

 

・不動産業者さんには、私文書偽造であり犯罪だとということを認識してもらう

業者さんで昔から、やっているような人というのは、認識の甘い人もいらっしゃいます。

20年前、30年前というのは、今とコンプライアンスについての考えがまったく違っていて、そのときの考えを今でも引きずっている人というのはいます。

 

・実印の押印と印鑑証明書の提示を求める

手続き上、法務局などに印鑑証明書の提出が必要でない手続きでも、調査士の本人確認として、実印、印鑑証明書の提出を求める。

 

・売買契約などのときに同席を求める

特に所有者さんが遠くに住んでいる場合は、契約時と最終決済時の2回くらいしか来ないこともあります。

来る機会があるときには、同席を求めてその場で必要書類に署名捺印をいただく。

 

本人確認、申請意思確認が出来ていない場合で、怖いのことがあります。

まず、実は本人が死亡していた。

つぎに、実は意思能力(自身で判断できる能力)がとぼしくて本来は分筆が申請できる状況ではなかった。

死亡していたというリスクは、住民票や印鑑証明書、身分証明書の提示を求めることで回避する。

意志薄弱かのリスクについては、面談と電話による聴取をするということです。

意識がしっかりしていない場合には、後に相続人からクレームが入る可能性があります。

 

もう一つのポイントとして、

土地家屋調査士の報酬を測量会社が請求して受領、調査士Aは役員報酬として会社から給与を得ていた。

 

例えば、土地家屋調査士が、測量会社、建設会社、不動産会社と事務所を同じくして、役員また社員として業務を行っている。

このような形態というのを見受けることがあります。

そうした場合であっても、土地家屋調査士が直接依頼者に請求して、報酬を得ることになっています。

しかし、今回の事例のように会社が土地家屋調査士の報酬を請求して、会社が調査士に給与として報酬を支払うということは法律で禁止しています。

なぜかと言うと、業務の主体が土地家屋調査士自身ではなく、雇用主にあるため、自由かつ独立の立場を守りながら業務を行うことが出来ないからです。

そのため土地家屋調査士は、法律に定めた職責を守れない許されない行為であるとされています。

つまり、会社が土地家屋調査士の報酬を得て、給与として調査士に支払うことは違法行為となります。

 

しかしながら、会社と土地家屋調査士が事務所を同じくする場合に、経費など会計処理を別にしなければならないこと。

また場合によっては、会社としての請求書と調査士としての請求書を別にして、依頼者に2通の請求書を交付することもあるでしょう。

依頼者からすると「なんで請求が別で、同じところから2通の請求書がくるの?」と疑問に思うかも知れません。

そういった面倒なこともあり、この事例のように会社から給与として報酬を得ていることが多いのではないかと推測します。

 

繰り返しますが、会社が土地家屋調査士の報酬を得て、給与として調査士に支払うことは違法行為となります。

 

 

 

 

事例4

B建設が建売住宅を建築し、買主Cがお金を支払わないためにB建設名義で建物表題登記を行った

申請意思確認義務違反および本人確認義務違反として業務停止処分1ヶ月

 

調査士Aは、B建設の名義で表題登記をするに当たり、登記の添付書類として、

B建設が建築主になっている確認済証、B建設が自ら工事を行った上申書、内装工事を行った工事業者の証明書を添付して登記を完了させた。

買主であるCはすでに土地を購入し土地の所有権移転登記をしているにも関わらず、Cに対して面談など所有権の確認を一切行わなかった。

 

建設会社さんと買主さんとの間で、トラブルが起こるというのはよくあります。

建物が完成してみたら、外壁が説明されていのと違うとか、さまざま食い違いから関係が険悪になることがあります。

この事例のように、代金を支払え、いや払わないのようになって、裁判にまで発展してしまう。

そうした中で、土地家屋調査士に登記をしてほしいと依頼がある。

調査士Aは、十分な所有権調査を行わないままに、B建設の言い分だけを聞いて登記をしてしまった。

その後に、買主Cが行った所有権確認訴訟の判決により建物の所有者が買主Cであることが確認された。

よって、真実の所有者でない建物表題登記を完了させたことが明らかになった。

 

この事例についての問題点です。

まずは、私なら依頼を受けないです。

似たような相談を受けることはあります。

建設会社から、代金の支払いがないので建設会社名義で登記をしたい。

あるいは、買主さんから建設会社から引渡証明書など書類の協力を得られないけど登記はできないか。

このような相談については、「弁護士に相談してください」と言って断ります。

 

つぎに、買主Cに事情聴取をしていない。

事情聴取をしていれば、裁判で係争中であることもわかったでしょう。

また建物の代金についても、全部支払っていないのか、一部の支払いが残っているのか。

一部の場合は、支払った金額が6割か7割かいくら支払ったのか。

おそらく、裁判で所有権が認められていることを考えると、全く支払っていないのではなくて相当額は支払っていたのではないかと思われます。

買主Cに連絡をしていないと言うのは、きびしいですね。

 

そして、B建設と健全な関係になっているか

普通に考えれば、依頼を断る、もしくは買主Cに事情を聴取するのは当然だと思います。

しかし、それが出来ない状況であったとも考えられます。

例えば、調査士Aの売上の50%はB建設の依頼が締めているといった場合には、なかなか言いたいことを言える関係になりにくいと言えます。

また依頼人の中には、「俺がお金を払うのだから、言う通りにやれ」といった人もいるでしょう。

あくまで依頼者と調査士というのは対等な立場です。

依頼者は報酬を支払う。調査士は知識や技術、技能を提供する。

つまり、依頼者のお金と調査士のサービスを交換することであり、どちらが上とかどちらが下ということではありません。

依頼人と対等な関係を維持できない場合には、業務を行わないほうが良いというのが私の考えです。

 

調査士Aは、所有権の争いに巻き込まれることになって、同情の余地はありますけど回避は出来たと思うのが私の意見です。

 

 

 

 

 

事例5

調査士法人の社員である調査士Aが、同じ法人の社員である調査士Bの調査測量に基づいて登記を完成させた。

他人による業務および私文書偽造により、業務停止3週間

 

調査士法人が受任した筆界確認業務について、調査士Bが現地の立会確認をした。

ところが、調査士Aは調査士Bに対して、Aが立ち会って筆界確認をした旨の事実と違う筆界確認書を作成させた。

また補助者Cに対しても、土地家屋調査士が行うべき境界立会業務を行わせた。

境界立会をした者に対して、立会した人以外の署名捺印を求める不適切な行為を行わせていた。

 

また少なくても2年間の間、調査士Aは事件簿の作成を怠っていた。

調査士は依頼を受けた内容について、法律の定めた様式で記録を残しておかなければならないですがやっていなかった。

さらに、土地家屋調査士として請求書、領収証の発行も怠っていた。

法律で定められた様式で、請求書、領収証の交付を行っていなかった。

また補助者の登録もしていなかった。

調査士は補助者(従業員)を雇ったとき、また退職したときは届け出をしないと行けないのですが、それも怠っていた。

 

違反している事項をまとめます。

調査士Aが行うべき業務を調査士Bに行わせていた。

他人による業務

調査士Aが行ったかのごとく、筆界確認書を作成した。

私文書偽造

補助者(従業員)による境界立会

他人による業務

立会した人以外の名前で署名捺印をさせた

補助者監督責任

そのほかの違反行為として、

事件簿の調整、領収証の交付、補助者の登録を怠っていた。

 

おそらく一般の人が疑問に思うのが、

本来、土地家屋調査士Aが行うべき業務を土地家屋調査士B行っていたことについて、何がいけないの?

ということではないでしょうか。

同じ土地家屋調査士の国家資格を持っているのですから、問題はないのではないか?

 

しかし、法律上は復代理行為ということになります。

調査士Aが調査士Bに業務の委託をする場合には、当然依頼者の承諾がなければならないということです。

依頼人に無断で、業務を取り扱わせた場合には、他人による業務の取り扱いとなり懲戒処分の対象となるでしょう。

 

また、下請けの調査士がミスをして損害を与えた場合に、元請けの調査士は責任を負うのかという問題です。

元請けの調査士は、選任と監督について責任を負うことになります。

つまり、下請けの調査士のミスについて責任は逃れられないと考えたほうが良いでしょう。

 

調査士法人の他の社員に業務を取り扱わせた事例でした。

 

 

今回は、5つの懲戒処分の比較的軽い事例を紹介しました。

このくらいは大丈夫だろうと油断していると、依頼者また隣地の人がクレーマー、工務店さんや隣地トラブルに巻き込まれて、大きな問題に発展することがあります。

今回の事例を参考にしていただければと思います。

 

それでは振り返ります。

事例1

調査士が入院中に、分筆登記を補助者(従業員)に行わせて完了させた

事例2

夫婦で調査士事務所を営んでいて、夫である調査士Aが受けた分筆登記の依頼を妻である調査士Bが行った

事例3

分筆登記の委任状を売買を仲介する不動産会社の社員Bが署名捺印をしていた。

事例4

B建設が建売住宅を建築し、買主Cが代金を支払わないためにB建設名義で建物表題登記を行った

事例5

調査士法人の社員である調査士Aが、同じ法人の社員である調査士Bの調査測量に基づいて登記を完成させた