土地家屋調査士の補助者として働く事務所を選ぶポイントは?
土地家屋調査士で将来独立を目指している人。
独立開業にあたって、実務経験を積む必要があります。
土地家屋調査士の場合は、即独(実務経験を積まずに独立)というのは難しいのです。
では、将来の独立開業に向けて、実務経験を積むのにどんな事務所を選ぶのが良いでしょうか。
今回は、実務経験を積む事務所の選び方をお話します。
ぜひ、最後までご覧ください。
私自身、9年間で3箇所の事務所で補助者として働かせていただきました。
最初に働いた事務所は、土地家屋調査士と行政書士の兼業をしていた事務所です。
そのほか家屋調査と言って、大規模な建物を解体工事や下水の工事などをしたときに周囲の被害状況を調査する仕事もしていました。
つぎに働いた事務所は、測量業と土地家屋調査士業務を兼業していて、メインの業務は測量業としての公共測量を行っている会社でした。
最後に働いた事務所は、土地家屋調査士と行政書士、さらに当時は現職の埼玉県議会議員も勤められていました。
かなり、特殊な環境で補助者をしていました。
私の補助者経験から、お話をします。
ポイントとしては3つあります。
1つ目は、事務所の規模
2つ目は、土地家屋調査士と他の業種との兼業
3つ目は、待遇について
1つ目は、事務所の規模
まず、大きな事務所では、豊富な業務パターンを経験できる。
しかし、分業化されていて測量する人はずっと測量をする。
登記の申請書類をつくる人は、書類作成ばかりをするということがあります。
私の場合は、土地家屋調査士の仕事をやらせてもらうことが多かったです。
しかし、10人規模の事務所にいたときに独立開業を希望している人に、ずっと土地家屋調査士の仕事とは無関係の仕事をさせられていた人も見たことがあります。
大きい事務所では、事務所全体の仕事量が半端じゃなくあります。
普通は、5年に1回くらいしか経験しないレアなパターンの仕事も常に事務所内にはあります。
自分が担当する場合はラッキーですし、他の人が担当していると「ちょっと、その仕事手伝わせて」と言ってレアパターンの仕事を経験していました。
本当は駄目なことなんですけど、他の人が退社して事務所に一人になったときに、こっそり他の人が作った書類を盗み見ていました。
もう、20年以上まで時効なので言ってしまいますが、「なるほど、こうやって書類や図面を作るのか」と盗み見をした経験が後の力になりました。
つぎに、小さな事務所では、事件数は少ないですが、オールラウンドに経験を積むことができます。
当然に事件数が少ないので、レアパターンの仕事を経験することはほとんどありません。
替わりに、事務所に来た仕事はほぼ全て見て経験することができます。
大きい事務所と違って分業化されません。
したがって、測量ばかりしていて登記申請書類の作成はほとんどやらないということはありません。
そのために、事務所にある仕事は全般的な経験を積むことになります。
また、小さい事務所では、土地家屋調査士と補助者との距離が近いというのがあります。
土地家屋調査士と補助者が、事務所内では、デスクを並べて座っている。
移動の車の中も一緒、もちろん現場でも共同作業です。
いつでも質問ができる。コミュニケーションが取れるというメリットもあるでしょう。
しかし、最初の1,2年は良い人間関係が作れても、後は犬猿の中ということも多いでしょう。
おおよそ、私も含めてですが土地家屋調査士で独立を考える人というのは、会社勤めができない、協調性がない、変な人が9割です。
男2人で、長い期間一緒にいれば仲が悪くなるというのが標準だと思います。
大きな事務所であれば、土地家屋調査士と補助者の関係は結構距離がある関係になります。
良い師弟関係を作るのであれば、小さい事務所より大きい事務所ということになるでしょう。
まとめると、大きな事務所では、分業されていて望んでいる実務経験ができるとは限らない。
ただし、仕事量が豊富で珍しい実務パターンがいつでも体験できる。
小さい事務所では、仕事量が少ないのでレアパターンはほとんどありません。
土地家屋調査士と補助者の関係が近すぎる。
ただし、事務所にある業務はすべて経験できるのでオールラウンドに実力がつく。
と言ったところです。
2つ目は、土地家屋調査士と他の業種との兼業
行政書士、建築士、司法書士などと土地家屋調査士事務所を兼業する事務所があります。
他の業種も行っている事務所では、農地法手続き、開発許可、道路位置指定など土地家屋調査士以外の業務も経験することができるのです。
開業後、土地家屋調査士の業務に専念して農地法など他の手続きはやらないにしても、経験は宝になります。
行政書士、建築士、司法書士などそれぞれ職域があって、もちろん自身の職域の範囲を超えて業務を行うことはできません。
ただし、依頼者の立場からすると士業の職域というのはまったく関係はなく、土地家屋調査士に任せればすべての問題が解決できるものだと思っています。
例えば、依頼者さんが土地の地目が「畑」になっているのを「宅地」に地目変更をしたいと依頼をされたらどうでしょう。
ある土地家屋調査士は、
「地目変更登記をするにあたっては、まず農地法の手続きが必要です。」
「農地法の手続きは行政書士が行います。行政書士に依頼をして手続きが終わったら、書類を私のところに持ってきてください。」
これでは依頼人も困ってしまいます。
私の場合は、分かる範囲のことはお話をした上で他の士業の人にバトンを渡します。
「地目変更をするにあたっては、まず農地法の届け出が必要です。」
「期間としては、農地法の届け出で2週間、地目変更登記で2週間と書類を揃えるのと作成する時間も合わせて1ヶ月半くらいは見てください。」
「必要書類は、〇〇〇〇となりますので準備してください。」
「農地法の手続きは、土地家屋調査士ではなくて行政書士の仕事です。もし差し支えなければ私がいつも仕事をお願いしている行政書士を紹介しますがいかがでしょうか。」
こんな感じで、仕事の筋道を立てた上でバトンを渡していくと言った感じです。
農地法の許可が必要な市街化調整区域でも、依頼者から事情聴取をして許可を受けることができるかできないかの判断もある程度はできます。
また、都市計画法の開発許可業務についても補助者のときに経験をさせてもらいましたので、ある程度の話はすることができます。
開発許可についても、分筆登記、地目変更、境界確定といった部分については土地家屋調査士の業務となります。
例えば、20宅地の分譲事業を行う場合に、さまざまな業者が絡んできます。
その中で、打ち合わせをしたときに全体像を把握できているかどうかが大切だと思います。
私の場合は、土地家屋調査士事務所で補助者をしながら、農地法、位置指定道路、開発許可の業務をかなり経験させてもらいました。
そのおかげで土地家屋調査士の周辺の業務である農地法、開発許可、道路位置指定についてかなり精通することができました。
土地家屋調査士の周辺分野について、農地法や開発は専門外です。
その分野の他の専門家に相談してください。ということでも良いとは思います。
ただし、私の場合は分かる範囲ではお答えするというようにしています。
3つ目は、待遇について
実務経験を積むことを目的にするのであれば、可能な限り待遇は考えないほうが良いでしょう。
私の場合は、割りと長い期間の補助者経験をしてきました。
しかし、普通は3年から5年くらいの実務経験で独立開業する人が多いと思います。
短い期間で多くのことを吸収しようと思うのであれば、給料がどう、休みがほしいという気持ちもわかりますが、貴重な補助者の期間に集中して経験を積むのが良いでしょう。
とは言っても、受験勉強をする時間を確保したい、生活するにはある程度の収入が必要ということがあるでしょう。
あくまでも可能な範囲で、待遇面を気にせずに働きましょうということです。
私は、最初に働いた事務所では長時間の残業が当たり前でした。
常に、大量の業務を抱えていて毎日夜9時、10時まで働くのは当たり前の状況でした。
そのおかげで、勤務した3年間で普通の人の10年分の経験を積むことが出来たと思います。
ここで経験した農地法、道路位置指定、開発許可の手続というのは、今は業務を自らは行いませんが経験は宝です。
ただし、ここで長時間労働を続けていたら実務は経験できるけど、試験の合格が難しいと思い退職しました。
今は、昔と違って補助者に長時間労働を強いるような事務所はほとんどないと思います。
しかし、長時間労働をするブラック事務所に入ったら短期間に大量の経験が積めるチャンスとも言えるでしょう。
私は開業して、今まで15人くらい採用して退職してということを繰り返して来ました。
その中で、待遇をこだわる人が何人かいました。
採用するときも結構高い給料を言って来て、採用当初はそれなりに仕事をしますが、ある程度待遇が決まってくると仕事をしなくなる。
経営者側からすると、コストパフォーマンスで見てしまうというところがあります。
支払ってる給与に対して、どれくらいの仕事をしているかという部分で見ているわけです。
この人は、コスパ悪いなと思うとこの人には経験してない仕事、教えながら進めないと行けないような難易度の高い仕事はさせないようにしようと思ってしまいます。
なぜなら、ただでさえコスパが悪いのに、さらにコスパを下げてしまうからです。
一生懸命やってくれる人に、新しい仕事を教えてチャレンジしていってもらおうと思います。
結構、プライドの高い人とか完璧主義な人に多いんですけど、新しいパターンの仕事とか難易度の高い仕事にチャレンジしないということがあります。
プライドや完璧主義が邪魔して、失敗するような仕事や経験のない仕事にチャレンジできないのでしょう。
そして、同じパターンの仕事を日々繰り返して、自分はこんなに仕事しているのに周りの評価が低いと主張する。
やっていることは、ベルトコンベアで流れてくる製品を毎回同じように、何も工夫をしないで組み立てているのと同じです。
せっかく、補助者という貴重な期間を過ごしているのですから、多くのことを経験して吸収するのが良いと思います。
補助者の期間というのは、開業してしまえばもう戻れない貴重な時間です。
できるだけ多くの業務経験をすべきであると思います。
完全に仕事ができることを100だとすれば、補助者の時代に10でも20でも経験しておくことが大切です。
経験値が0の経験を開業後に80あるいは90レベルに持っていくのは無理ではないけど結構難しいと思います。
10でも20でも経験値があることを最終的に80に持っていくのは、それほど難しくはないと思います。
例えば、土地家屋調査士として直接手続きはしなくても、農地法や、道路位置指定、開発許可などに絡んで登記手続きをすることもあるでしょう。
そのときに、依頼人や関係者は士業の職域などは関係ないですから、当然のように専門的な話になってきます。
経験値が0だと、依頼人や関係者が何を言っているのかもよくわからないということになってしまいます。
補助者という、戻れない貴重な時期に少しでも多くの経験を積んでおくことが大切だと思います。