土地家屋調査士のコミュニケーション~境界立会の前までに行うこと
土地家屋調査士の仕事は、測量をして隣接する土地の所有者さんと境界線の確認をする。
そして、最終的にはお隣の所有者さんに境界について承諾して頂きます。
そして境界確認書、立会証明書ご印鑑を頂くのが、仕事の多くの部分となります。
そのために、境界立会の前までにどのようなことを行っているかをお話しします。
流れとしては、まず測量の依頼を受けたら、隣接する土地所有者さんにご挨拶に回ります。
そして数日にわたり現地を測量して、後日、立会のお願いをする。
そして、境界立会をするという流れです。
まず、大前提としては、「人は相手が何を考えているか。そして相手がどんな人間であるか見抜く能力を持っている」ということです。ただのテクニックで相手をコントロールしようとすると必ず失敗します。
誠実に、公正に、中立の立場で業務を行うというマインドが必要です。
そのうえで、どのように隣地の所有者さんに接しているかです。
具体的には、三つの視点で考えています。
隣地の所有者さんに、親近感を持ってもらう。誠実に業務を行っている事をわかってもらう。そして承諾して頂くための準備をしてもらう。ということになります。
一つ目は、「親近感を持ってもらう」です。
まず強力なのは、笑顔です。意識して口角を上げて目じりを下げます。
まじめな話をするのに笑うのはおかしい。という人もいますけど、基本いつも笑顔です。
場面によって、笑顔の強弱はつけますけど笑顔で接するのを意識しています。
そしてできるだけ相手の名前を呼ぶ、ご案内やメモ書きをポストに入れる際にも相手の名前を多く入れるようにします。
できるだけ、接触の回数を増やします。目線を合わせることを意識しています。
また相手の意見を否定しないで聴くということです。
たとえ相手が同意できない意見を行ったとしても、「あなたはそう考えてるんですね」とか「そう感じてるんですね」とか「なるほど勉強になります」など相手の意見を否定しないで、まずは意見を受け止めることが大切です。
二つ目は、「誠実に業務を行っている事をわかってもらう」です。
前述したように、大前提としては、「人は相手が何を考えているか。そして相手がどんな人間であるか見抜く能力を持っている」ということです。
つまり、誠実でない考えを持って、誠実でない日常を送っている、依頼人の利益ばかりを考えているとそれは相手に伝わっているということです。
隣接の人と接する時だけ、誠実さを装ってもすべて伝わってしまうということです。
そのうえで、隣接の人と接するときには身だしなみを清潔にする。嘘やごまかしはしない。ルールを守る、時間を守る、路上駐車などはしない。
ということが大切です。
三つ目は、「承諾して頂くための準備をしてもらう」ということです。
小さな承諾を積み重ねるという方法があります。
営業マンが使うフットインザドアテクニックというものです。
「測量のご挨拶に伺いました。お時間よろしいでしょうか。」
「境界を見るのに敷地に入らせていただいてよろしいですか。」
「境界の確認をお願いしたいのですが日程のご都合はよろしいでしょうか」
できるだけ細かく承諾をたくさんいただくようにします。
また、なぜ測量をするのか、なぜ境界の確認が必要なのかという理由を説明すると後々の境界の承諾が得られる確率が高くなります。
これは、カチッサー効果というもので、心理学者のエレン・ランガー が実験をおこなったもので、きちんとした理由を言うとその後の要求が通りやすくなるということがあります。
例えば、「住宅を建築するために測量して境界を明確にするこが必要なので境界線の確認をお願いします」
「売却するのに、新しい所有者さんとの境界線を明確にしておきたいので測量をしています」
「○○さんが亡くなられて、土地を分けるのに測量をしていますので、ご協力お願いします」
もちろん理由を言うには、依頼者の了承も必要ですが、具体的な理由を言うということは有効です。
安価なものをプレゼントする。タオル、メモ帳、ペンなど200円から300円程度のものであれば相手も気兼ねなく受け取れて、お返ししないといけない返報性の意識を持ってもらうことができます。
遠方の人には、測量や立ち入りのご案内と一緒に粗品を登記簿の住所に郵送します。これで、登記上の住所に住んでいるか所在の確認も兼ねることができます。
民有地の立会はできるだけ、道路など公共用地の境界立会と同日に行います。「当日は○○市の職員も立会をします」などと言って権威者の名前を出すことで、信頼性を増すことができます。
そして、未来の絵を浮かばせるように話す。
「空き家があると近隣の人は何かと不安だと思います。でも測量が終わって工事が進めばきれいな住宅が立ち並びます」
「今回、測量することで、分筆の登記をするので、測量した図面が公的な資料として法務局で永久に保管されます。」
「測量して境界の確認が出来ましたら、境界標を設置します。コンクリート製の杭で周りをモルタルで固めて動かないようにします。なので後々も安心ですよ」
お隣との境界確認をして、安心、安全、境界紛争のない状態にする。
次の機会に、境界立会の当日にどのように対応するかお話しします。